SES契約が偽装派遣に該当しないために
法務コラム
SES契約が偽装派遣に該当しないために
仲野裕美弁護士
1 SES契約と派遣契約の違い
多くのIT関連企業においては、システムエンジニアリングサービス契約(SES契約)により、自社が請け負ったシステム開発や保守業務の一部を外部の事業者に業務委託しています。
SES契約は、契約類型としては準委任契約または請負契約に該当します。これらの契約は、時間ではなく業務内容に応じて対価を得る点で雇用契約とは異なります。また雇用契約と比較して、期間を自由に設定することができる、社会保険関係の手続きが不要となるなどの利便性があります。
この反面、外部の事業者が個人事業主であるような場合に特に問題となるのが、当該SES契約スキームが労働者派遣に該当しないか、という点です。労働者派遣に該当する場合、請負業者は派遣元に、外部の事業者は派遣労働者にそれぞれ該当することとなり、請負業者には派遣業の許可が必要となります。
もともと準委任契約・請負契約と派遣契約には、下図のとおり、共通する部分が多くあり、一見区別がつきにくいように見えます。準委任契約・請負契約として締結したSES契約が実質的に派遣契約であるという指摘、すなわち偽装請負であるという指摘を受け、法的トラブル になることを避けるためには、準委任契約・請負契約が派遣契約とどのような点が異なるのかという法律知識と、派遣契約に近い運用になっていないかについて定期的にチェックすることが必要です。
2 具体的対応
偽装派遣にあたらないために、どのような対応をすべきでしょうか1。
まずは厚生労働省が発表している判断基準である「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」及び関係疑義応答集の判断枠組みを十分に理解し、同告示第2条に記載されている要件をすべて充足しておく必要があります。中でも注文主に対しては、外部の事業者に対して直接の指揮命令ができないことを十分説明し、運用をチェックする必要があります。
アジャイル型開発については、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する疑義応答集(第3集)が公開されていますので、参考になります(https://www.mhlw.go.jp/content/000834503.pdf)。
これら37号告示及び疑義応答集の内容を具体的な自社の受発注業務に引き直し、契約書、受発注書、チェックリストなどを整備するほか、注文主への説明マニュアルの整備、社内向けセミナーなどで問題意識と対応方法を説明することが効果的です。必要に応じ、弁護士に相談することも有効であると考えられます。
時間経過により、直接、注文主が労働者に指示をするようなことが横行すれば、せっかく整備した契約書等があっても偽装派遣と言われかねません。整備後も運用については十分注意し、SES契約の適切な運用を心がけましょう。
<参考情報>
37号告示(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/gigi_outou01.html)
第二条 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であつても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
(2) 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
(1) 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
(2) 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ 次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
(1) 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
(2) 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
以上